japan.internet.com2013年01月29日
●的外れなパンダアップデート対応
Google によるコンテンツ品質評価の強化、通称「パンダ・アップデート」と呼ばれる検索アルゴリズムの更新を受けて、検索エンジンからの集客を重視する企業の中にも本腰を入れて対応に乗り出したところも増えてきた。つまり、サイト内のコンテンツを強化しようという動きだ。
Google としては、検索結果にできるだけ高品質な―訪問者にとって役立つ、有益な情報を提供できる―ウェブサイトを表示できるようにしたい一方、内容が薄く、役に立たないコンテンツは排除していくことでサービス品質を高めたいという考えがある。つまり、こうした発想に基づくアルゴリズムに"適応"したいのであれば、大原則として提供されるべきコンテンツは、少なくとも「価値あるもの」でなければいけないのは言うまでもない。
ところが実際に"パンダアップデートに対応してコンテンツ強化しました"という企業のサイトを見てみると、首をかしげたくなるような事例が少なくない。そこで今回は、改めて今日の検索マーケティングのトレンドにおける「コンテンツ」の考え方について、前編と後編に分けて解説をしたい。
なお、一般的なコンテンツ戦略やコンテンツマーケティングの話では話題が広がりすぎてしまうので、本稿では検索マーケティング担当者が理解・実行すべきコンテンツの話に限定して話を進めさせていただく。
●「今日食べたランチ」を誰が知りたいのか?
たとえば、ある企業はパンダアップデートが日本にも適応された後、自社の Webサイトの検索エンジントラフィックを維持するためにコンテンツの強化に取り組み始めた。外部の SEO 会社からのアドバイスを受けて、サイト内に、新たに製品・サービス別に複数のブログを設け、担当する各部署が数日に1回のペースで記事を更新していくような取り組みを行った。
この取り組み事態は素晴らしい。しかし問題はその内容だった。過去3か月のそれぞれの新たに公開された記事の内容を分類すると、全体の80%が次の内容で占められていた。
・天気
・お昼ごはんの話
・近くのイベント情報(お祭りとか、紅葉がきれいですね、etc)
・社員向けの行事の話
つまり全体の80%が、顧客には全く持って関係なければ、誰のための情報なのかよくわからないものが発信されている。SEO 会社からそうアドバイスされて行っているそうである。
個人が自分のブログで日々の出来事を書き連ねるのはその人の自由であるが、果たして、会社の特定製品・サービス専用のブログにおいて、それに言及する記事がほとんどなく、大多数にとってどうでもいい記事が出来上がっていくことに、意味があるのだろうか。そもそも、「パンダアップデート」に対する回答にすらなっていない。
実は、SEO のためのコンテンツ強化策という名目で、内容の薄い記事が増えるようになったサイトというのは、いくつもある。このようなアドバイスをする外部の会社にも問題があるが、それを真に受けて取り入れる企業にも問題がないわけではない。
こうした的外れな対応を行ってしまう原因は、「アルゴリズム的に評価されればいい」という、技術的アプローチのみでの解決策を図るという旧態依然とした発想で解を求めるというその姿勢にあるだろう。本来の解決策は、自社サイトの潜在顧客を良く見て、彼らにとって有益なコンテンツを継続的に提供すること、つまりユーザーを見て考えるという、極めて当たり前なところから考えなければならない。
パンダアップデート以後に、欧米でコンテンツマーケティングやコンテンツ戦略といったトピックスが話題になっているのは、ユーザーに役立つ、皆が紹介をしたくなるコンテンツ作りとはどうすべきかに皆が関心を集めるようになったことを示している。だから、こうした言葉がバズワード的に注目を集めているわけだが、それを理解せず、従来通り外部リンク中心で SEO を進めて、何か適当にコンテンツを積み上げていっても、解決にはならない。
●価値あるコンテンツにはお金がかかるのか?
ユーザーの役に立つコンテンツ、皆がリンクしたりシェアしたくなるようなコンテンツを継続的に作ってくださいというと、多くの担当者は「お金がない」「何を書いたらいいかわからない」「書くスタッフがいない」「ネタがない」などの、"できない理由"を並べてくる。ただ実際のところ、今日の SEO の世界で求められるコンテンツ作りに必要なのはお金ではなく、着眼点である。
要は、ある商品やサービスを購入してもらいたい場合、それを購入する顧客が最終的な意思決定をするまでの過程で必ず質問・相談してくるような事柄をコンテンツにすれば良いだけである。求められるのは「顧客が知りたいことは何?」の一点なのだから、難易度が高い仕事では決してない。それを購入する時に、"実はみんなが知りたがっていること"を求める発想や視点が必要だ。
●「雑誌の編集者」の立場で考える
コンテンツ作りに必要な事柄は本コラムの後編で述べていくが、今日は1つだけ。コンテンツ作りは「雑誌の編集者」だと思って考えてみると良い。
つまり、商品やサービスの利用を検討している顧客に渡す小冊子やパンフレットを作成すると思って、そこに何のコンテンツを掲載すべきか、という発想で考えるということだ。そうすれば、先に紹介した「ランチの写真」や「外部の人間にとってはどうでもいい社内行事の話」は入れてはいけないことは明白だろう。
雑誌を手に取った顧客が、その商品やサービスの魅力にひかれる、比較検討材料を探している人が、これが良さそうだなと判断できること、ちょっと不明だったことがハッキリとわかるような情報、つまり顧客の背中をちょっと押してあげられるようなコンテンツをどう継続的に発信していくのかという発想で考えるのが、肝要である。
株式会社アイレップ 取締役 SEM 総合研究所所長 渡辺隆広 記事提供:アイレップ